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クニヅクリ ルポタージュ#1 飯沼正樹さん

更新日:2023年6月1日


今回のインタビューのお相手は飯沼正樹さん。 アクアポニックスという日本ではまだ珍しい新しい農法の大規模な農場を作った方でもあり、古民家を改修し里山で”ムラヅクリ”もされているという事で、いつか訪ねてみたいなぁと思っていたところ、話が進み取材する流れに。

お話を終えてみると飯沼さんはパイオニアでもあり、これからのコミュニティづくりのリーダーの在り方を見せてくれる方でもあると感じました。



池があり、小川が田んぼに流れ込む豊かな里山


飯沼さんは、株)スーパーアプリという モバイル向けゲームアプリ開発事業を主とするエンターテイメント企業の代表。ASKAプロジェクトのメインメンバーでもありHPを作ってくださったご縁で、今回の機会をいただきました。


HPについて話している時に、いろいろと詳しい方だなぁ。と思っていたのですが、まさか本業の方だったとは!と驚き、会社について聞いてみたところ、配信しているゲームが若者に大人気のアプリだったことに再度驚き!

当日お会いする時にはかなり緊張していたのですが、とっても温かく迎えて下さって、お話しているうちに緊張していたことも忘れて、帰るころには飯沼さんの開拓地で、ムラヅクリメンバーのみなさんとすっかりくつろいでおりました。







 

アクアポニックス”マナの菜園”は命の循環


まず、アクアポニックス農場である「マナの菜園」へ。

飯沼さんとムラヅクリしているメンバーさんたちも合流し、案内をしていただきました。


ちょっと言いにくいのですが・・・ マナの菜園を訪れるまで私個人の考えとしては植物は自然な環境で育てるほうが良いのでは?と思っていました。

でも、でもですよ。飯沼さんに案内をしてもらううちに(こういう農法で育てるのもいいかも!)と感じるようになったのが自分でも驚きでした。

ーアクアポニックスとは 水産養殖を意味する「アクアカルチャー」と、水耕栽培を意味する「ハイドロポニックス」を組み合わせてできた、新しい農業・水産業を指す言葉です。アクアポニックスは、魚と野菜をいっしょに育てます。エサを食べた魚がフンをするとバクテリアが分解し、植物の栄養素をつくります。その栄養素をつかって植物が成長し、浄化された水が魚の水槽にもどります。排水がないので環境負荷が低く、また生きた魚がいるので農薬や化学肥料を使えません。「土壌の代わりに水で育てる有機栽培」ともいえる、エコでサステナブルな循環型農法として注目されています。(HPより引用 https://www.super-appli.co.jp/agritech

マナの菜園は大きなハウスの中にあり シンプルないくつかの装置が並んでいました。


大きく育ったリーフ類。

元気な熱帯魚たち。

ハウス内で作業している社員さん。

すべてが相まってハーモニーの取れた空間。


長い間使われていなかったハウスの改修は大変だったそうです。 本来ならデスクに座っているはずの社員さんたちと一緒に 鉄骨部分の錆を落として塗り直し、ボロボロのビニールを剥がして張り直して。


案内をしてくださった女性社員の方が「私、本当は人事担当なんです。」 「ハウス改修の仕事で体力がついちゃいました。」とおっしゃいながらも、楽しそうで、他の社員さんも皆さんいきいきと自主的に動いていらっしゃって、その環境と空間がきらきらと美しく感じられました。 土で育っていなくても、作り手が楽しそうに作業している空間で育ったお野菜たちは幸せだろうなぁ。

マナの菜園の「マナ」は、野菜や魚介などの肴を指す「真菜」「真魚」、旧約聖書の食べ物「マナ」、メラネシア語の「神秘的な力」などにあやかっているそうです。



とにかく誰もが一番初めに尋ねたいであろう質問をしてみました。

ーーそもそもなぜITのお仕事から農業という発想になったのですか?

「経済の流れを見ているうちに、これからは農業だと感じたんです。色々調べているうちに魚の養殖と農業が一緒になった新しい農法があることを知って。まずは自宅で試してみました。」

「もともと熱帯魚が好きで。大学在学中に熱帯魚屋さんで働いていたこともあるくらいで、アクアリウムという水槽内に石や木と水草を配置することに凝っていた時期もあったんです。」

熱帯魚が好きだったという飯沼さん。 自分の知っている好きな分野だったからこそ挑戦できたそうです。

マナの菜園でティラピアやチョウザメを養殖しているものの、かわいくて手放せないとおっしゃっていて、素敵だなと思いました。


 

行く道が降って来る



「大学卒業後フリーターをしていたんですが、IT系の企業に就職したのは、これからはコンピューターに詳しければ必要とされるんじゃないかって感じたからなんです。」

へぇー!

パソコンには詳しかったのですか?


「分解して、組み立てるくらいには。」


すごい!



「スーパーアプリで初めて出したオンラインゲーム「ガドラン★マスター」のアイデアも、ある日地下鉄に揺られながら

”自分のドラゴンを育てたい!”と唐突にひらめいたからなんです。」


へぇーっ!!!

自分のドラゴンを育てるってまたすごい発想ですよね。

飯沼さんが、今ここにいるのは自分の声に素直に従ってきたからなのですね。


 

見えない世界へと導かれる

「会社がうまくいかなくなった時に、なんとなく滝行や神社巡りを始めたんです。見えない世界というものを本当は大事にしなくちゃいけないんじゃないかと思って。見えないところをおざなりにして、見える所だけ何とかしようと力み始めると全然回らなくなるし、結果しか追わなくなる。見えないところと見えるところをちゃんと無理なくやっていくと自然と調和して現実化されていくんだと感じました。

日本の企業の中でも見えない部分を大切にし、神社にお参りに行くとか神棚をつくっているという企業だとやはり長続きしていますよね。 」


「何のために自分は(会社は)ビジネスをやっているのかを考えることが大切で、世の為、人の為だけではなくて、地球や自然の為に何が出来るかを教えて下さい。と神様に尋ねていく。自分たちの活動の源になっているのは何かを探り、祈り合わせではないですけれど、それが経営理念となって、社員全員で同じ目線を共有し、同じ心をもって、神様にこういうことをやっていきます。と宣言して、それに対し真面目に、実直に取り組むことが大切なのではないかと思っています。」


 

里山との出会い

「岐阜の山奥の土地を手に入れたのが3年前。

最初は三重の方で土地を探していたんですがピンとくる場所になかなか出会えなくて。そんな時に経営者としてのメンターの方から 「八百津はいいところだよ」と一言いただいたんです。 全然土地勘のない中、とりあえず八百津の役所を訪れてみたら、今ちょうどキャンセルになった場所があって、明日明後日で決めてくれるならご案内できますよと言われて。その場所は30人待ちというとても人気のある土地だったんですが、一旦決まっていた話が流れてしまい、改めて募集をかける直前ということもあってこちらに話が来たんです。すぐに見に行き、即決しました。」









手押しポンプの井戸があり、小川が流れ、菖蒲の生えた池と、田んぼと畑、そして大きな屋根と太い柱のある母屋、その裏には山を抱え、祈りの場がある。 まさに日本の原風景がギュッと詰まったような、誰もが懐かしいと感じてしまう里山。




私たちが田んぼを見ていると、

日本カモシカがやってきてこっちを見ました。

「時々来るんです。」と飯沼さん。

カモシカは逃げる様子もなくのんびりしています。



高低差があるので飯沼さんのおすすめの手作りのデッキからの眺めが最高で アクアポニックス農場の試作第2号が井戸の隣に見えました。



「コロナが始まった時と重なったので、ここでの作業が社員にとって気晴らしになったようです。夏とか真冬はさすがに厳しそうでしたが。笑 作業を一区切り終えてデッキからここを眺めると、疲れを超える達成感みたいなものが湧いてきて、またやる気が出てくる。その繰り返しでしたね。」


「土地も人と同じように、急に人間が入って来てガンガン乱暴に開拓されたら嫌かなと思って重機を入れることなく、すべて手作業で進めてきました。重たいものはみんなで運ぶというように。

都会育ちの為、最初は汚いなと感じた土が、自分たちの手で作業しながら触れているうちに、受け入れられるようになったというか、土を汚いと感じることがなくなってきたんです。自分のほうがこの土地に馴染んでいったのかもしれないですね。」

「自給自足を考えていましたが、やってみて里山の環境がこれだけ揃っているこの場所であっても無理だなと感じました。自給自足を目指すなら、村単位でないと難しいですね。

あと、ここに人を常駐させて事業活動をやることも難しい。売るものが野菜くらいしかないから、現実的ではないのでそういう経営判断はできないですね。」



ーーなるほど。お金は使えるけど、ここでビジネスはしないという人をこの土地が求めていたんでしょうね。まさに土地に呼ばれた感じですね。

「誰かから教わったわけでもなく、土地の整備をしていくなかで気付かされたことが多く、やりながらどこをどういう風にしたらいいかがなんとなく見えてきて。

こういう風にしたいというイメージはなかったのですが、こっちをやってみたら、今度はここが気になる。と言うように全体的なバランスを見ながら無意識に動いていたら、場が整ってきたという感じでした。 土地に学ばされているという感覚でいます。ですので、この場所を学びの場として使っていけたらいいなと思っています。」

「作業していても隣の家が遠いから、向こうもこっちも気にならないんです。

でも、すぐ会える場所にお隣さんがいて、いざとなれば助け合いが出来るというちょうど良い距離感。 お互いの生活が目に入らないけどすぐ会えるというここの集落の距離がとても居心地がいいんです。」











 

自然の中に身を置く


「頭を使うだけではなく、体を使うことでアウトプットされますね。

自然の中にいると心もリセットされる。ここは現在の色に染まっていないので、 素の状態の波動が残っていて、来た人も自然と素の自分になれるような気がします。

ここにいるとすっと力が抜けて素直に考えられるようになって インスピレーションが降りてきます。」




「あと、自然の中にいると自分に出来ないことがはっきりとわかると言うのも大きいですね。」


「体力には自信があったのですが、来たばかりの時にここにあった石が動かせずに、自分の非力さを思い知りましたね。木も本当に重くて。月並みですが、改めて自然てすごいなって思いました。 大きな自然の中にいる非力な自分。何もできないけどこのままでいいんだということ、人は自然に生かされている存在なんだと感じました。

あとは花を眺めて美しいと感じられるようになったんです。 海外に支社もあって社員140人を抱えていた時には、とてもそんなことを感じたことはなかったですねぇ。色々と気負ってましたから。 でも、ここにいると逆に上手くいかなかったことが財産になるんです。

あぁ、必要な課題を与えてくれてるんだな。って安心して受け取れるようになりました。」



経営者として優れているわけでもないし、商売が上手というわけでもないとご自身のことをおっしゃる飯沼さん。 「母親が陰陽五行などを学んでいて、あなたは中庸をいく人だからバランスを取りながら進んで行く人だよ。と言われたことがあったんですが、これからやりたいことがまさに”調和の世界を創る”ということなんです。」

ーー大学卒業後フリーターになったことについてそのお母さんから何か言われなかったんですか? 「何も。」

一同笑


「自然農での畑も作っていますが、どうしても限りがあって、多くの人の生活を支えるとなると、ある程度の規模が必要になって来ますので、道具(テクノロジー)の使い方、使う場所を理解し、学んでいく事がこれから求められていくんじゃないかと思っています。

科学燃料を使わないことも言われていますが、石油などのエネルギーも元は自然が生み出したもの。必要なところには必要だと思うので、使いどころを考えて使っていくと自然と人間がちょうどよいバランスで暮らせる世の中になっていくんじゃないかな。」

ムラヅクリメンバーが飯沼さんのことについて口々におっしゃっていたのは

「庭にきれいにぴっちりと並べてあるタイルを見たらわかると思うんだけど、まっくん(飯沼さん)は一つ一つの工程を確実にやってきた人!

あとは現実化するにあたっての見通しの付け方がとても現実的で、真面目だし、どんなことも手を抜かずにやるんだよね~。」 という事でした。

「アクアポニックスもまずは自宅で試し、ここで試して現実面を確かめてから、マナの菜園を作りました。 自然界のように、水の流れで魚と植物と微生物の生命の循環サイクルを作り、その循環の環の重なりを繋げて広げていくこと、様々なものを組み合わせて調和をみていくということを意識し、できるだけたくさんの人の生活と食料を賄えるように研究しています。」



 

祈りの経営


「今は週に1回本社に行ってちょっとした仕事をするくらいで、あとはほとんどここにいますね。」

その言葉を聞いて、自主的に楽しそうに働く社員さんたちの顔が浮かびました。

最先端の技術を扱う会社の代表である飯沼さんが、見えない世界を大切にしているということ。そしてそれを当たり前に社員さんと共有している事がなんだかとても嬉しくて、人間が生み出したテクノロジーと自然との共存に大きな希望を感じました。

中心にいる人のエネルギーが、その場と、その周りの人に響いて拡がっていく。

いいも悪いもなく調和だと思っていて、組み合わせたときに全体で調和する状態をつくっていく。と言う飯沼さんの創造する世界はまるでパズルのよう。 一ピース、一ピースをはめていく段階ではどんなものになるかは見えてこないけれど 繋がっていくと一枚の絵になっていく。

全体の調和を計りながら組み立てていくということは、 もしかしたら日本人が得意とする部分かもしれません。


祈りが中心にあり、調和のとれた里山に、調和のとれた経営。 人間が生み出した最先端の技術と、誰もが懐かしいと感じる日本の原風景の里山の融合。

人間も自然の一部だという事。 人間が生み出したものも自然の一部。 土地と人と見えない存在が結びつき 全てで調和していく世界。



マナの農園、岐阜の里山は日本人としての在り方が詰まった空間でした。



この土地に身を置くだけで 自然と必要なことが起き、知恵が降り注ぎ 一人一人に必要な学びが起こってくるという気がしました。


まさに自然からの恩恵。


訪れた人が恩恵を受けることができるという事は、ここを整えている飯沼さん始め、皆さんの思いが土地と共鳴しているからなのでしょう。 土地も人も喜びと共に。


ムラヅクリを進めていきたいと考えている方、 アクアポニックスや経営について尋ねてみたいという方、 是非、岐阜の里山へ訪れてみてはいかがでしょうか。

書き手 穂乃宮

 

飯沼正樹


株式会社スーパーアプリ代表取締役 https://www.super-appli.co.jp/ ゲームプロデューサー アクアリスト/里山ファーマー

全世界向け・累計1億5000万人以上がプレイするゲームを創出。 Meta社(旧Facebook)からのオファーを受け、アジア・パシフィック地区のゲームカンファレンスでスピーカーとして登壇。 循環型農業(アクアポニックス)の実現に向けた研究を進めている。 里山の住所 岐阜県加茂郡八百津町南戸333番地

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