熊本は有明海に雲仙普賢岳を望む美しい丘の上に広がる、
まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような非日常の空間。

アースバックデザイナー小堺康司くんが創り出す「アウトドアフィールドのんねむ」に、ASKAプロジェクトのみんなと行ってきました!

柔らかな曲線とカラフルな彩りで内部まで装飾された、まるでホビットが住んでそうなお家。

アースバッグは『自分で作れて、可愛くて、災害にも強い』
しかもエコ建築と万年住宅の可能性を持っている!
さらに、水回りやインターネットも快適に利用できて、
まさに「地球に優しく」と「現代技術」の良いとこ取りが叶った世界なのです。
聞けば聞くほど、従来の「家」の概念が書き換えられてゆく感じのするアースバッグ建築。
これらはどのようにして生まれてきたのか、そしてこれからどこへ向かってゆくのか。
日本のアースバッグ工法を第一人者として牽引してきた康司くんにインタビューして見えてきたのは、想像を超えたわくわくする未来でした。

近未来の住宅建築技術「アースバッグ工法」
ーーとっても可愛くてお洒落なだけでなく、その空間で宿泊してみたら、ここ最近で一番ぐっすり眠れたことにとても感動しています。
ありがとう。
素材もできるだけ天然のものを使って快適に過ごせるように、というのを意識してるよ。
しかも基本どこにでもある「土」を建材にするから、資材調達が簡単。
それに消石灰や砂を混ぜたものを「長い土嚢袋」に詰めて積み上げていくからEarth Bag =土嚢袋の家 でもあるし、地球に還る=Earth Back のも目指している、それがアースバッグだね。
「めがね橋」みたいに懸垂曲線を使ってドーム構造を作るから、均等に重力がかかって、災害にもめっちゃ強いんだ。2016年の熊本地震でもビクともしなかったよ。
僕たちが目指してるのは、人間にとって都合のいい「効率」とか「生産性」だけでなく、
もっと総合的な「ずっと先の子孫にも、地球にも、他の生物にも」優しいお家として、
アースバッグ工法を楽しみながら進化させているよ。

ーーそもそも、タイル工を生業としていた康司くんが、アースバッグに出逢ったのは、いつどこで?
アースバッグとの出逢いは、2011年頃。
始まったばかりの「エコビレッジSAIHATE」だったんだ。
サイハテには、パーマカルチャーとかエコな情報を持ってる人がたくさんいて、その中の一人にアースバッグの本を見せてもらったのが最初。
とにかく惹かれたのが「曲線」の造形力だね!
既存の工法と全く違って、まるで絵を描くみたいに自由に創れる「土の建築」のポテンシャルに衝撃を受けて、『これだ!』と思った。
それまで木材や基礎ブロックなどの真っ直ぐな素材でわざわざ曲線を造っていたからね(笑)
もともとは東京で絵描きを目指していたんだけど、都会のマンションにいると思うような絵が描けないことに悩んでいて。その時に「自分が心地良く絵を描ける環境」をつくりたいと思ったのが、モノづくりの世界に入った最初の動機。
それまでモザイクタイルで空間を彩るだけでなく、ツリーハウス、ドームハウス、みんなで楽しめる石窯、自由に旅するためのモバイルハウスなど、興味が湧いたらなんでも作ってたんだけど、アースバッグに出会ってからは、それだけに夢中になって気付けば10年が経っていて、絵描きを忘れるくらい没頭してた。
昔から自然に触れてると調子が良いし、森の中に居るだけでいろんなインスピレーションが湧いてくる、という感覚があって。それは子どもの頃に田舎の自然の中で生活してた原体験があり、身体が自然を求めているんだろうね。
だから、天然素材で空間が作れるアースバッグハウスに最終的に行き着いたって感じかな。

アースバッグと出逢ってからは、早く形にしてみたくて、本当にすぐ動き始めた。
アースバッグに関する書籍って未だに洋書しかないんだけど、仲間に頼んで翻訳してもらったり、自分なりに解釈して、2012年に手探りでアースバッグ工法を使ってバイオトイレを作るワークショップから始めたんだ。サイハテで場所を借りて、イベントを企画したんだけど、その時は参加者が夫婦一組しか来なくって。結局そのトイレも完成を見ず…、最初はそんなところからのスタートだった。
だけど、その後も自分なりに動いてたら、アースバッグの発案者であるイラン人のナダー・カリリさん直伝で工法を習ったヒロさんという男性と出会って、彼と一緒に活動できることになった。それまでは小さい土嚢袋を積み上げる方法で作っていたんだけど、ロングチューブという筒状の袋を使うやり方を教わったんだ。
ヒロさんと企画を進め、「日本初のアースバッグハウス」とうたってワークショップを企画したら、定員12名のところに13名も集まり、一週間の合宿を通して、衣食住を共にした家族みたいな繋がりができて、大きな手応えが生まれたのを今でもハッキリ覚えてる。
寝る時間もない忙しさで、人生で一番と言えるぐらい大変な一週間だったけど、建物だけでなく人の縁もどんどん広がっていき、色んな可能性を感じた時間だった。一人だと大変な作業もみんなでやると楽しくなる。建築という枠を超えて、人と人が繋がる場を作れると思ったら嬉しかった。そんな勢いと流れに乗って、そのたった一週間のうちに『日本アースバッグ協会(JEBA)』まで立ち上げてしまったんだ。

『日本の風土にはアースバッグは向いていない』のか?
ーー湿気が多い日本には、アースバッグハウスは合わない、と聞いたことがあるのですが…。
確かに最初は、防水手段が確立してなくて漏水してしまったり、カビや苔が生えたり、凍結で壁がボロボロになったり、ヒビが割れたりと課題だらけだったよ。2〜3年はなかなかうまくいかなかったね。
なぜかというと、アースバッグは、温暖でカラッとした米国カリフォルニア発祥の工法だから、四季のある日本の気候風土に合わせて工夫して変えていく必要があった。
でも、逆に日本にしかない土の技術があることも分かってきた。
それが ”三和土‐タタキ”。セメントの無い古い時代からある土を固める技術。
消石灰、赤土、苦汁(塩化マグネシウム)の三つの素材を混ぜて固めたもので、土間とか土壁、土蔵、見世蔵とかに使われているものだね。
今では新建材も活用しながら、防水や防湿対策をすることで、初期の頃の問題をしっかりカバーできるようになった。そんな風に壁に突き当たると、解決できない課題はないと思ってるから、逆にその伸び代にワクワクして魅力を感じるんだ。
こんな風に10年の紆余曲折を経て、現場で得てきた知識技術には価値があると思っていて、世界中で使われる「日本式アースバッグ工法」を目指しています!
夢中になって走り抜けた10年で得たもの

未開拓の工法で、経済的に安定するまでは大変だった。仕事として生計を立てていくには、お金というエネルギーもしっかり循環させないといけない。最初のうちは、ひたすら求められるところへ行き、ワークショップ形式で合宿をしたり、有志の人たちを集めるなど、いろんなやり方を試してみた。
使う資材や建築技術のクオリティを上げるだけでなく、チームワークの作り方、お金の集め方、さらには法律についても、全部をやりながら一つ一つ向き合い解決して行ったんだ。
10年前から土地探しをしてきたんだけど、数年前に熊本のこの土地と運命的な出会いをしてからは、「のんねむ」という拠点を作り始め、宿泊施設として営業することで、実際に滞在してアースバッグの良さを体感してもらえる場所ができた。それで経済的な基盤も、循環する仕組みも整ってきた感じだね。
これまでに熊本以外にも、静岡、千葉、新潟、沖縄など、日本全国いろんなところでアースバッグの制作をしてきた。最近では、屋久島の「Earth Life Village」というフィールドにバイオトイレを創っていて、ハード面とソフト面を兼ね備えた新しいモノづくりの形も見えてきてる。
自分たちの理想の家を自分たちの手で作っていくってことは楽しいし、ワクワクして、そのモノ自体にもすごく愛着が湧いてくる。
衣食住を共にしながら、同じ志を持った人たちと何もない場所にひとつの家を建てると、年齢性別業種関係なく、昨日まで全く知らなかった赤の他人が、あっという間に仲間になっていく。それは、人の繋がりを生み出してゆくモノづくりコミュニティの面白さ。その作るプロセスも、アースバッグの魅力だと感じている。

長年かけて集めた情報や技術は、まだまだ発展途上、可能性の塊だと思ってるから、どんどん公表、シェアしていくことも大切にしてるよ!
多くの人に学んでもらって、実践してもらいたいし、「教える」と「教わる」の関係性というより「みんなの実践をシェアし合ってより良い工法をともに追求する」関係性を作っていきたい。
そんな訳で、ワークショップで伝える他に、まとまった時間が取れない人のためにオンライン形式でも学べるように映像やマニュアル本の制作も進めてるところだよ。
アースバッグは『楽しい』が一番!
ーーアースバッグは、作業を進めるにつれ、上の方に土嚢袋を上げなきゃいけないし、だんだん疲れてきて、作業を最後まで継続するのがすごく大変とか聞いたこともあります…。
今自分たちが実践しているアースバッグ工法は「長い麻袋に混合土を入れて、叩き締め、積み上げる」という流れ。長い袋に入れるのは小さなバケツで一杯一杯をバケツリレーのように上げていくので、女性や子どもたちも一緒に作業をしているよ。
土を振るったりするので、一人だと確かに大変な作業もあるんだけど、みんなで音楽を聴いたり、おしゃべりしながら作業してくと、楽しく時間が過ぎていく。
作業に関しては、場の空気感がすごく大切。気持ちよく作業できる環境を整えておくことと、仕事ではないので楽しい雰囲気でやっていくためにイベントとして期間を区切って、一気に仕上げるのは大事かな。
集まる参加者って、老若男女がいて、建築のプロもいれば、工具すら触ったことがない人、学生、音楽家、料理人…みたいに多様性を絵に描いたようなメンバーが集まってくる。そして不思議とムー